広告費の配分は、成約率で媒体を比べる
年度のはじめに媒体ごとの広告費を決めて、そのまま1年が過ぎていく。途中で見直そうとしても、媒体ごとに成果の数え方が違って横並びになりません。そこで手が止まっている人に向けて書いています。
先に結論から言うと、成果地点をそろえる必要はありません。 各地点から成約までの割合を出せば、違う数え方のまま同じ物差しに乗せられます。
この記事では、決めたあと、媒体をまたいだ配分をどう動かすかを書きます。
この記事でわかること
- 媒体別の費用相場は配分の答えにならない。相場は自社の条件を含んでいないため
- 成果地点が違っても、そろえる必要はない。成約までの割合を出して換算する
- 決め方は4つあるが、どれも最初の1回にしか効かない。見直しの間隔を先に決める
この記事は広告効果測定の一部です。
目次
- 媒体ごとの費用相場は、広告費の配分の答えにはならない
- 実績がない1年目だけは、相場から始める
- では相場は何に使うか
- 広告予算の決め方は4つあるが、どれも最初の1回にしか効かない
- 決めた瞬間から、前提は動き始める
- 事業側の数字から逆算すると、精度が上がる
- 媒体ごとに成果地点が違っても、そろえる必要はない
- そろえると、媒体の得意な入口を壊す
- そろえるのではなく、換算する
- 換算すると、判断が変わる
- 割合は、どのくらいの期間で出すか
- ただし、そろえたほうがよい場合もある
- 成約まで追えていないと、媒体の比較そのものができない
- 管理画面は申し込みまでしか数えない
- つなぐのに必要なのは、3つだけ
- なぜ、追えていない状態が続くのか
- 突き合わせは、月に1回でも足りる
- 割合が出れば、KPIも設定できる
- 広告予算の配分を決めた後、いつ何を見て動かすか
- 1. 見直す間隔を決める
- 2. 動かす単位を決める
- 3. 動かさない期間を決める
- 見直しの場で見る数字
- 増やすときと、減らすときで手順を分ける
- 見直しの場に、誰が出るか
- 決めたことを、その場で書く
- 媒体ごとに代理店が違うと、横並びで比べる相手がいなくなる
- 代理店は、自社が扱う媒体の中でしか比較材料を持てない
- 各社の報告を足し算しても、全体像にはならない
- 代理店を外すと、別のものも失う
- 代理店に聞いておくとよいこと
- 代理店を1社にまとめるという選択
- 横断して見る役を、発注側に置く
- この記事で扱わないこと
- 1つの媒体の中の運用改善は扱わない
- 配分を頻繁に動かしすぎない
- 配分の見直しは、担当者の評価と切り離す
- 新しい媒体は、比較対象がない時期がある
- 成約1件あたりだけで決めない
- 広告を止めるかどうかの判断は別の話
- まとめ:今日、1つだけ確かめてみてください
媒体ごとの費用相場は、広告費の配分の答えにはならない
広告予算の配分を考えるとき、多くの人がまず媒体別の相場を調べます。検索して出てくる記事も、媒体別の費用目安を並べたものが中心です。
相場を知ること自体は無駄ではありません。ただ、相場だけでは配分は決まりません。
理由は単純で、相場に自社の条件が入っていないからです。
| 相場に含まれていないもの | なぜ効くか |
|---|---|
| 自社の商材の単価 | 単価が高いほど、1件あたりに払える金額が変わる |
| 粗利率 | 同じ売上でも、残る利益が違えば許容できる広告費が違う |
| 成約までの期間 | B2Bで半年かかる商材と、その場で買える商材では回収の設計が別 |
| 既存の顧客基盤 | 指名検索が多い会社と、まったく知られていない会社では入口の作り方が違う |
この4つが違えば、同じ業種でも配分は変わってきます。相場は出発点であって、答えではありません。
とくに「業種別の平均」に自社を合わせにいくのは危険です。平均は、条件がばらばらな会社をならした数字だからです。
実績がない1年目だけは、相場から始める
例外が1つあります。広告を始めたばかりで、自社のデータが何もない場合です。
このときは自社の数字を持っていないので、相場から始めるしかありません。媒体別の目安を置いて、3か月ほど回して実測に切り替えます。
大事なのは、相場のまま2年目に入らないことです。3か月あれば、自社の成約までの割合はある程度見えてきます。その時点で、借り物の数字から自社の数字へ置き換えてください。
では相場は何に使うか
相場を調べる意味がないわけではありません。使いどころが違うだけです。
| 使い方 | 向き不向き |
|---|---|
| 🔴 配分をそのまま決める | 不向き。自社の条件が入っていない |
| 🟢 桁を確かめる | 有効。月5万円で考えていたが、相場は月50万円だった、という気づきが出る |
| 🟢 新しい媒体の初期値にする | 有効。実績がない媒体は、相場から始めて実測で直す |
| 🟢 代理店の提案を検証する | 有効。提示された金額が相場から大きく離れていたら、理由を聞く |
相場は「確かめる道具」であって、「決める道具」ではありません。 決めるのは自社の数字です。
他社の平均に寄せていくと、他社と同じ場所で同じように戦うことになります。条件が違う以上、同じ配分が同じ結果を生むとは限りません。
広告予算の決め方は4つあるが、どれも最初の1回にしか効かない
配分の前に、そもそもの広告予算をどう決めるか。上位の記事を読み比べると、方法は4つに整理できます。
| 決め方 | 中身 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 売上比率法 | 売上の◯%を広告費にする | 事業が安定していて、前年の実績がある |
| 目標から逆算 | 目標CV数 × 目標CPA で必要額を出す | 目標CPAが決まっている |
| 競合対抗 | 同業他社の投下量に合わせる | 市場でのシェアを取りにいく段階 |
| 前年踏襲 | 前年の実績をベースに増減させる | 大きく事業が変わっていない |
どれも間違っていません。状況によって使い分けます。それぞれ、実際に使うときのつまずきどころがあります。
売上比率法でよく聞かれるのが「何%が妥当か」です。業種と成長段階で変わるため、一律の答えはありません。前年の自社の比率を出発点にして、目標との差から調整するほうが現実的でしょう。他社の比率を借りると、粗利構造が違う分だけずれます。
目標から逆算は、目標CPAが決まっていないと使えません。しかも、この目標CPAを決めていない会社が多いです。決め方はCPAが下がったのに売上が増えない理由に書きました。実際に成約した単価から、各段階の比率で割り戻すのが早いです。
競合対抗の難しさは、他社の投下量が正確には分からないところにあります。媒体が提供する推定値や、広告の露出頻度から推し量ることはできますが、精度は高くありません。シェアを取りにいく局面以外では、優先度を下げてよい方法です。
前年踏襲の落とし穴は、前年の配分が正しかったとは限らないことです。前年も同じ理由で決めていたなら、根拠のない配分を何年も引き継いでいることになります。
ただ、4つとも「決める瞬間」の方法です。決めた後にどう動かすかは、どれも扱っていません。
決めた瞬間から、前提は動き始める
広告予算の配分を決めた翌週から、条件は変わっていきます。
動くのは、たとえば次のような条件です。
- 競合が入札を強める
- 季節で需要が動く
- 新しい媒体が伸びてくる
- 自社の商材や価格が変わる
最初に置いた前提のうち、3か月後に残っているものは多くありません。
それでも媒体別の配分が変わらないのは、見直す仕組みがないからです。予算の決め方を書いた記事は多いのに、見直し方はほとんど書かれていません。上位5本のうち、決めた後の見直しに触れていたのは1本だけでした。
事業側の数字から逆算すると、精度が上がる
4つの決め方のうち「目標から逆算」を使う場合、目標CPAの出どころが問題になります。
広告の管理画面の中だけで決めると、申し込みが増えることが目標になります。ところが事業として増やしたいのは、成約と売上のほうです。
私が関わった案件では、営業側に成約の情報を書いてもらい、それを広告側に戻す流れを作りました。すると、どの経路が売上につながっているかが見えます。そこから逆算すると、目標CPAの根拠が事業側の数字になります。
媒体ごとに成果地点が違っても、そろえる必要はない
ここからが本題です。
複数の媒体に広告を出していると、媒体ごとに成果地点がばらばらになります。
- 検索広告は「問い合わせ」を成果として数えている
- SNS広告は「資料請求」を成果として数えている
- ディスプレイ広告は「会員登録」を成果として数えている
3つとも「CV」と呼ばれます。ただし中身は別のものです。この状態で「CV単価はどの媒体が安いか」を比べても、意味のある答えは出ません。
多くの人は、ここでそろえようとします。 全媒体の成果地点を「問い合わせ」に統一しよう、というように。
そろえる必要はありません。
そろえると、媒体の得意な入口を壊す
媒体ごとに成果地点が違うのには理由があります。
検索広告に来る人は、すでに課題を自覚しています。だから、問い合わせまで進んでくれます。一方、SNS広告で初めて名前を知った人に問い合わせを求めても、そこまで進みません。資料請求という軽い入口のほうが取れます。
つまり成果地点の違いは、媒体ごとの温度の違いを反映した設計です。無理にそろえると、温度の低い媒体で取れるものが取れなくなります。
そろえるのではなく、換算する
やり方はシンプルです。各成果地点から成約までの割合を出す。 それだけで、違う数え方のまま同じ物差しに乗ります。
| 媒体 | 成果地点 | 件数 | 成約 | 成約までの割合 |
|---|---|---|---|---|
| 検索広告 | 問い合わせ | 20件 | 6件 | 30% |
| SNS広告 | 資料請求 | 100件 | 5件 | 5% |
| ディスプレイ | 会員登録 | 200件 | 4件 | 2% |
(数字は説明のための仮の値です)
この表があれば、成約1件あたりの広告費を媒体ごとに出せます。件数が多い媒体が良いとは限らないことも、同時に見えてきます。
成果地点は違ったままで構いません。 割合さえ持っていれば、換算できます。
換算すると、判断が変わる
さきほどの表を、成約1件あたりの広告費まで出します。仮に、3媒体とも同じ月100万円を使っていたとします。
| 媒体 | 成果地点の件数 | 件あたり単価 | 成約 | 成約1件あたり |
|---|---|---|---|---|
| 検索広告 | 20件 | 5.0万円 | 6件 | 16.7万円 |
| SNS広告 | 100件 | 1.0万円 | 5件 | 20.0万円 |
| ディスプレイ | 200件 | 0.5万円 | 4件 | 25.0万円 |
(数字は説明のための仮の値です)
件あたりの単価だけを見ると、ディスプレイが10分の1で最も安く見えます。 ところが成約まで通すと、いちばん高いのはディスプレイです。
成果地点をそろえずに件数だけで比べていると、この逆転に気づけません。「安い媒体に寄せたら、売上が落ちた」ということが起きるのは、たいていこの読み違いです。
割合は、どのくらいの期間で出すか
成約までに時間がかかる商材では、直近1か月のデータで割合を出せません。今月の申し込みが成約になるのは3か月後、ということが普通に起きます。
目安として、成約までにかかる期間の3倍を見ます。3か月かかるなら、9か月分を並べる。短ければ短いなりに、四半期単位で見ます。
期間が足りないうちは、割合が動くことを前提に扱ってください。1か月ごとに大きく変わるなら、それはまだ判断に使える精度ではありません。
ただし、そろえたほうがよい場合もある
「そろえなくていい」と書きましたが、例外があります。
同じ媒体の中で、キャンペーンごとに成果地点がばらばらな場合です。検索広告のキャンペーンAは問い合わせ、キャンペーンBは資料請求、という状態。これは温度の違いというより、設定した時期や担当者が違うだけのことが多いです。
同じ媒体の中では条件がそろっているので、成果地点を統一したほうが運用しやすくなります。媒体の自動入札も、統一されているほうが学習しやすいです。
見分け方は単純です。成果地点が分かれている理由を、説明できるか。 説明できれば残す、できなければそろえる。
「昔からそうなっている」しか出てこないなら、それは設計ではなく、ただの引き継ぎです。
この章のまとめ
成果地点が媒体ごとに違うのは、温度の違いを反映した設計。無理にそろえると取れるものが取れなくなる。そろえずに、各地点から成約までの割合で換算する。ただし同じ媒体の中でばらついている場合は、そろえたほうが運用しやすい。
成約まで追えていないと、媒体の比較そのものができない
前の節で「割合を出せばいい」と書きました。では、その割合はどこから出るのか。
成約まで追えていなければ、出せません。
そして、ここが実際にいちばん多く欠けています。成約まで追う設計をしないまま広告を運用している事業責任者は、少なくありません。
管理画面は申し込みまでしか数えない
広告の管理画面が数えられるのは、申し込みが入ったところまでです。その先で受注になったかどうかは、営業が持っています。
この2つがつながっていないと、次のような状態になります。
- 管理画面では「CV単価が下がった」と出ている
- 事業側では「売上が伸びていない」と感じている
- どちらの数字も正しい
見ている区間が違うだけで、誰も間違えてはいません。
つなぐのに必要なのは、3つだけ
割合は、申し込みの一覧と成約の一覧を、会社名かメールでつなぐと出ます。手順はCPAが下がったのに売上が増えない理由と同じです。新しいツールは要りません。月に1回で足ります。
なぜ、追えていない状態が続くのか
「成約まで追えばいい」と分かっていても、実際に持っている会社は多くありません。詰まる場所は、だいたい3つです。
1つ目は、部門が分かれていること。 広告を見ているのはマーケティング、成約を持っているのは営業。日々の業務では交わりません。どちらも自分の担当範囲の数字は追っていますが、つなげる仕事は誰の担当でもありません。
2つ目は、営業側に入力の手間が増えること。 「どの経路から来たお客様か」を記録してもらう必要があります。営業からすれば、自分の成績に直結しない作業です。記録の依頼で止まる会社が多いです。
3つ目は、道具を入れて満足してしまうこと。 CRMやMAを導入したものの、入力されていないので数字が出てきません。ツールがあることと、データが溜まることは別の話です。
突き合わせは、月に1回でも足りる
3つとも、毎日つなぐ必要はないと考えると軽くなります。
月に1回、その月の申し込み一覧と成約一覧を並べる。それだけで割合は出ます。営業に依頼するのも「毎回入力してください」ではなく「月末に、この一覧に印を付けてください」であれば、引き受けてもらえます。
私が関わった案件でも、新しいツールは入れていません。 すでに社内にあるデータを、人が突き合わせただけです。
割合が出れば、KPIも設定できる
成約までの割合が出ると、副産物があります。各段階のKPIを設定できることです。
問い合わせから商談が50%、商談から成約が20%と分かっていれば、成約を10件増やすために必要な問い合わせ件数が逆算できます。目標CPAも同じ方法で出せます。
逆に、この割合を持っていない状態では、広告の数字を増やしても事業の数字が増えるかどうかが分かりません。配分を決める土台そのものが無い、ということです。
データの持ち方についてはデータ活用の考え方、指標の設計はCPAが下がったのに売上が増えない理由にまとめました。
この章のまとめ
割合は成約まで追わないと出ない。管理画面は申し込みまでしか数えない。必要なのは3つの資料と、それをつなぐ列だけ。割合が出れば各段階のKPIも設定できる。
広告予算の配分を決めた後、いつ何を見て動かすか
見直しの仕組みを作ります。決めることは3つです。
1. 見直す間隔を決める
毎週予算を動かすと、媒体の学習が安定しません。かといって年1回では遅すぎます。
毎週動かすと、媒体の学習が安定しません。年1回では遅すぎます。月に1回、または四半期に1回。間隔を先に決める。四半期に1回でも構いませんが、間隔を決めておくことが大事です。決めていないと、問題が起きたときだけ動かすことになり、それは見直しではなく対処になります。
2. 動かす単位を決める
配分を動かすとき、どの単位で動かすかを先に決めます。
- 媒体の単位(検索広告からSNS広告へ予算を移す)
- キャンペーンの単位(同じ媒体の中で商材別に)
- 商材の単位(複数媒体をまたいで、商材Aから商材Bへ)
単位を決めていないと、判断が毎回ぶれます。「今回は媒体で見て、次はキャンペーンで見る」ということが起きると、前回との比較ができません。
3. 動かさない期間を決める
3つの中で、いちばん抜け落ちやすいところです。
予算配分を変えた直後は、どの媒体も成果が落ちます。学習が入り直すからです。ここで慌ててまた戻すと、動かし続けているだけになります。
変えたら、次の見直しまでは触らない。 この取り決めを先にしておきます。
見直しの場で見る数字
3つ並べれば足ります。
- 媒体ごとの成約件数と、成約1件あたりの広告費
- 各成果地点から成約までの割合(前回との比較)
- 媒体ごとの件数の伸び(頭打ちになっていないか)
3つ目は、増やせる余地があるかどうかを見ています。成約単価が良くても、件数が頭打ちなら、そこに寄せ続けても増えません。
増やすときと、減らすときで手順を分ける
見直しの結果は「増やす」か「減らす」のどちらかになります。この2つは、同じ手順で扱わないほうがうまくいきます。
増やすときは、段階的に。 予算を一度に倍にすると、獲得できる層が広がって単価が上がります。伸びている媒体でも、1回の増額は2〜3割までにとどめて、成約までの割合が維持されているかを確かめてから次に進みます。
減らすときは、理由をセットで。 減らされる側から見れば、成果を否定されたように受け取られます。「成約1件あたりで比べると、いまはこちらが効率的だから」という比較の形で伝えると、納得してもらえます。担当者や代理店の評価の話にしないことが大事です。
そしてどちらの場合も、減らした分がどこに行ったかを明示します。行き先が分かっていれば、次の見直しでその判断が正しかったかを検証できます。
見直しの場に、誰が出るか
数字がそろっても、出席者が広告の担当者だけだと、媒体内の改善の話で終わります。
最低限、予算の配分を変えられる人が入っている必要があります。加えて、成約の情報を持っている営業側から1人。この3者がそろうと、その場で決まります。
代理店を呼ぶかどうかは、場合によります。呼べば詳しい説明が聞けますが、媒体をまたいだ配分の話は発注側だけでやったほうが早いこともあります。各社の前で「予算を減らします」とは言いにくいからです。
決めたことを、その場で書く
見直しの場で決まったことは、次の3つを1枚に書いて残します。
| 書くこと | 例 |
|---|---|
| 何をどう変えたか | ディスプレイの予算を30万円減らし、検索広告へ移す |
| なぜそう判断したか | 成約1件あたりで25.0万円と最も高く、件数も頭打ちのため |
| 次に何を見るか | 検索広告の成約件数が、2か月で◯件増えるか |
3つ目があると、次の見直しが速くなります。前回何を期待して動かしたかが残っているので、当たったかどうかを確かめるところから始められます。
残していないと、毎回ゼロから議論することになります。
この章のまとめ
見直しは間隔・単位・動かさない期間の3つを先に決める。見る数字は成約1件あたりの広告費、成約までの割合、件数の伸びの3つ。決めたことは「何を・なぜ・次に何を見るか」の3点で残す。
媒体ごとに代理店が違うと、横並びで比べる相手がいなくなる
もう一つ、組織のほうの話を書きます。
複数の媒体を扱っていると、媒体ごとに代理店が分かれていることがあります。検索広告はA社、SNS広告はB社、というように。
この状態には、見落とされやすい制約があります。
代理店は、自社が扱う媒体の中でしか比較材料を持てない
A社は検索広告の運用実績を持っています。他社の事例も知っています。ただし、SNS広告と比べてどうかは分かりません。扱っていないからです。
だからA社の報告は、検索広告の中での改善提案になります。B社も同じで、SNS広告の中での改善提案をします。
どちらも誠実に仕事をしています。それでも、媒体をまたいだ配分の話は、どちらからも出てきません。
各社の報告を足し算しても、全体像にはならない
A社の報告書とB社の報告書を並べても、それは2つの部分最適が並んでいるだけです。
「検索広告のCPAが10%改善しました」「SNS広告のCVが20%増えました」。どちらも良い報告ですが、では予算をどちらに寄せるべきかには答えていません。
その判断ができる材料を持っているのは、両方の数字と、事業側の成約情報を持っている発注側だけです。横断して見る役割は、発注側にしか置けません。
代理店を外すと、別のものも失う
ここで「では内製化しよう」と考える人もいます。ただ、代理店を外すと手数料以外のものも一緒に無くなります。
- 緊急時の対応先。審査落ちや配信事故が起きたとき、社内1〜2名では復旧が遅れる
- 市場のベンチマーク。同業を何社も見ている代理店は、相場の肌感を持っている。自社の数字しか見えなくなると、CPAの悪化が自社の問題か市場の変動かを切り分けられない
- 現場の生の声。事業計画を立てるときに、市場の肌感が入らなくなる
手数料の削減額だけで判断すると、この3つが計算に入りません。内製化と外注の比べ方は、別の記事にまとめる予定です。
代理店に聞いておくとよいこと
外さずに、横断して見る材料を増やす方法もあります。定例のときに、次の3つを聞いておきます。
- 「この単価は、同業と比べて高いほうですか」 — 代理店は他社の運用も見ています。聞かれれば答えられることが多い
- 「いま伸びている媒体・機能はありますか」 — 媒体側の最新情報は、出稿量の多い代理店に先に入ります
- 「うちの配分を、外から見てどう思いますか」 — 自社の担当媒体以外についても、意見としてなら出てきます
3つとも、こちらから聞かなければ出てきません。立場上、自分から言い出しにくいだけで、材料は持っています。
代理店を1社にまとめるという選択
「では全媒体を1社にまとめれば、横断して見てもらえるのでは」と考える人もいます。
これは有効な場合があります。1社が全媒体を持てば、媒体をまたいだ提案が出てきます。報告も1つにまとまり、突き合わせの手間が減ります。
引き換えに、失うものもあります。
| まとめる | 分ける |
|---|---|
| 横断した提案が出る | 媒体ごとに強い会社を選べる |
| 報告が1本にまとまる | 1社の質が落ちても、他が残る |
| 交渉窓口が1つで済む | 相見積もりで単価を確かめられる |
どちらが正しいということはありません。 まとめた場合でも、「予算をどこに寄せるか」の最終判断は発注側に残ります。まとめれば判断まで任せられる、というわけではない点だけ注意してください。
横断して見る役を、発注側に置く
そのうえで、媒体をまたいだ判断は発注側に残します。必要なのは広告の知識ではなく、事業側の数字と、各社の報告を1枚にまとめる手間です。
月に1回、各媒体の成約件数と成約1件あたりの広告費を1つの表に並べる。それだけで、各社の報告からは見えなかった差が出てきます。
この章のまとめ
代理店は自社の扱う媒体の中でしか比較材料を持たない。各社の報告を足しても全体像にならない。横断して見る役割は発注側にしか置けない。
この記事で扱わないこと
範囲の外にあるものを書いておきます。
1つの媒体の中の運用改善は扱わない
入札の調整、キーワードの整理、クリエイティブの差し替え。どれも重要ですが、この記事は媒体をまたいだ配分の話です。
媒体内の改善は、それぞれの運用担当が持っている領域です。運用の設計そのものは運用型広告の考え方に整理しました。
配分を頻繁に動かしすぎない
見直しの仕組みを作ると、今度は動かしすぎることがあります。
媒体の配信は、予算を変えるたびに学習が入り直します。毎週動かせば、どの媒体も学習中の状態が続き、本来の成果が出ません。
間隔を決めるのは、動かすためではなく、動かさない期間を作るためでもあります。
配分の見直しは、担当者の評価と切り離す
運用の担当者や代理店にとって、予算を減らされることは評価を下げられたように感じられます。
配分の見直しを人の評価と結びつけると、数字の報告そのものが歪みかねません。悪い数字は、上がってこなくなります。見直しの場は、成果を判定する場ではなく、次の置き場所を決める場だと最初に共有しておいてください。
新しい媒体は、比較対象がない時期がある
新しく試す媒体には、成約までの割合がまだありません。数か月分のデータが溜まるまでは、既存の媒体と同じ物差しで比べられません。
この期間は別枠として扱います。既存媒体の配分とは分けて、試験的な予算として置いておく。同じ表に入れて比べると、必ず新しい媒体が悪く見えます。
成約1件あたりだけで決めない
この記事では成約1件あたりの広告費を軸に置きました。とはいえ、それだけで配分を決めると偏ります。
たとえば、成約単価は高いが新規の顧客層を開拓できている媒体があったとします。既存の顧客層に強い媒体に全部寄せると、短期の数字は良くなりますが、母集団は先細ります。
配分の1〜2割は、いまの物差しでは測れない枠として残しておく。新しい媒体や、新しい顧客層への接触に充てます。この枠を持たない配分は、数字上は最適でも、来年の材料を作れません。
広告を止めるかどうかの判断は別の話
配分を見直した結果、ある媒体を止めるという判断になることもあります。止める判断には、別の要素が入ります。
その決め方は広告費を止める判断基準、CPAが高いことに気づく方法はCPAが相場の2倍でも気づかない理由に分けて書きました。
まとめ:今日、1つだけ確かめてみてください
媒体ごとに成果地点が違うから比べられない、のではありません。成約まで追っていないから、換算できない。この記事で書きたかったのはそこです。
いま出している広告について、次の5つを確かめてみてください。手元の資料を開けば、15分ほどで分かります。
- 媒体ごとの成果地点を書き出したか。何を「CV」と呼んでいるかは、媒体ごとに違うはずです
- 各地点から成約までの割合を出せるか。出せれば、そろえなくても比べられます
- 出せない場合、成約の情報は誰が持っているか。たいてい営業部門にあります
- 見直しの間隔を決めてあるか。月1回か四半期に1回で足ります
- 媒体をまたいで見る担当がいるか。代理店が分かれているなら、発注側に置くしかありません
2つ目が出せなかったら、そこが最初に埋める場所です。配分の計算をやり直すより先に、成約までつなぐ列を作るところから始めてください。
つなぐ列を作るのは、大きな仕事ではありません。今月の申し込み一覧を営業に渡して、成約になったものに印を付けてもらう。それを1回やるだけで、いまの配分が正しいかどうかが見えてきます。
完璧な計測の仕組みを待つ必要はありません。1か月分の突き合わせが1回あれば、判断の材料としては足ります。
数字の設計から一緒に見直したい場合は、効果測定の考え方もあわせてご覧ください。
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