獲得単価が下がったのに売上が増えない理由
この記事でわかること
- 獲得単価が下がっても売上が動かないのは、安く取れる層に配信が寄っているため
- 確かめるのに計測ツールはいらない。営業と月に一度、商談になった件数を突き合わせるだけでいい
- ずれを見つけても止まらないのは、止める基準が決まっていないから
「今月、獲得単価が3割下がりました」
代理店の担当者が、そう報告しました。資料の数字は、たしかに下がっています。前月10,000円だった獲得単価が7,000円。申し込みの件数も増えている。会議室の空気は、悪くありませんでした。
私も疑いませんでした。改善している。そう受け取って、次の議題に移りました。
その3か月後、営業部長から「広告からの問い合わせ、最近ひどくないですか」と言われます。話を聞くと、商談にならない問い合わせが増えていました。資料だけ受け取って連絡が取れなくなる人。予算の話をすると黙ってしまう人。営業の現場では、手応えが明らかに落ちていた。
広告の数字は、その間ずっと良くなっていました。
この節のまとめ
広告の管理画面で獲得単価が下がっていても、事業側で商談の質が落ちていることがあります。両者は別のものを数えているため、片方だけを見ていると気づけません。
数字は本当だった。ただ、私が見ていた数字ではなかった
代理店が嘘をついたわけではありません。運用が下手になったわけでもない。あとから振り返ると、彼らは私が渡した目標に対して、正しく仕事をしていました。
問題は、私が渡した目標のほうにありました。
管理画面が数えているのは、どこまでか
広告の管理画面には、表示回数、クリック数、獲得件数、獲得単価が並びます。この「獲得」が何を指すかは、こちら側が設定します。私たちは資料請求を設定していました。資料を請求してくれた人が1件。そこまでが広告の仕事で、そこから先は営業の仕事です。
- 成果地点(コンバージョンポイント)
- 広告の効果を測るときに「1件」と数える行動のこと。資料請求・問い合わせ・購入など、どこに置くかは出稿する側が決めます。ここをどこに置いたかで、媒体が探しにいく相手が変わります。
この線引き自体は、おかしなものではありません。おかしくなるのは、線の手前だけを見て良し悪しを判断したときです。
媒体は、渡された目標に忠実に動く
いまの広告配信は、機械が自動で最適化します。「資料請求を安く取れ」と指示すれば、資料請求をしやすい人を探しにいく。ここに悪意はありません。指示どおりです。
ただ、資料請求をしやすい人と、商品を買う人は、同じではない。情報収集が仕事の人。競合の調査をしている人。とりあえず全部集めておく人。彼らは資料請求のハードルが低いので、機械から見ると「安く取れる優良な相手」になります。
3割下がった獲得単価の中身は、これでした。
この節のまとめ
広告の自動最適化は、設定された成果地点を最も安く達成できる層を探します。その層が購入意欲の低い人であっても、機械は区別しません。設定された成果は達成しているためです。
単価が下がったときに、起きていること
あのとき知っていればよかったのは、「単価が下がった」という事実ではなく、下がり方に何種類かある、ということでした。
- 購入意欲の低い層に寄った
- 申し込みは増えるが、商談にならない。いちばん多い形です。
- すでに買うと決めていた人を拾い直した
- 指名検索や既存顧客に広告を当てている。広告がなくても買っていた人です。
- 成果地点が購入から遠い
- 途中の行動を数えているので、そもそも売上と連動していません。
3つとも、管理画面の中では「改善」として表示されます。区別する方法は、管理画面の中にはありません。
同じ期間を、二つの物差しで見る
| 見ている場所 | 前期 | 今期 | どう見えるか |
|---|---|---|---|
| 広告の獲得単価 | 10,000円 | 7,000円 | 3割の改善 |
| 申し込み件数 | 100件 | 143件 | 4割の増加 |
| 商談になった件数 | 30件 | 30件 | 変わらない |
| 商談1件あたりの費用 | 33,000円 | 33,000円 | 横ばい |
上の2行だけを見れば、良い月です。下の2行を足すと、何も変わっていない月になる。同じ期間、同じ広告費の話です。
数字は架空のものですが、この形は繰り返し見てきました。広告費は同じ、申し込みは増えた、それでも売上は動かない。報告資料には、上の2行だけが載っています。
この節のまとめ
獲得単価が下がったときは、件数の増加がどの層から来たかを確かめてください。安く取れる相手に寄っている場合、申し込みは増えても商談の数は変わりません。単価ではなく、商談1件あたりの費用で並べると実態が見えます。
確かめるのに、新しい道具はいらなかった
この話をすると、計測の仕組みを入れる相談になりがちです。私も最初はそう考えました。ツールを入れて、広告から受注までを自動でつなげば解決すると。
実際にやったのは、もっと地味なことでした。
- 広告経由の問い合わせを、商談と突き合わせる粗い集計で構いません。どの媒体から来た人が商談になっていないかが見えれば十分です。
- 成果地点を、事業に近い場所へ移す件数が足りない場合は動かさず、評価だけを受注ベースに切り替えます。
- 媒体をまたいで、同じ数え方で並べるここを飛ばすと、以降の議論が印象論になります。
営業の担当者と、月に一度数える
広告経由の問い合わせ一覧を印刷して、営業の担当者に渡します。「この中で、商談になったものに丸をつけてください」。それだけです。
最初の月は、名寄せもできていない粗い一覧でした。それでも十分でした。丸のついていない行が、特定の媒体に固まっていたからです。管理画面では、最も安く取れていた媒体でした。
この作業に必要だったのは、営業部門との30分の打ち合わせだけです。予算の申請も、システムの導入も、いりませんでした。
成果地点を、事業に近づける
ずれが見えたら、媒体に渡す目標を変えます。資料請求ではなく、商談になった件数を成果として設定する。オフラインで決まった分を戻す設定も、ここに含まれます。
ただし、件数が少ないと機械の学習が回りません。目安として、月30件を下回るなら成果地点は動かさないほうがいい。その場合は媒体には従来の目標を渡したまま、社内の判断だけを受注ベースに切り替えます。
注意
成果地点を変えると、その前後で数字を直接比べられなくなります。変更した日を記録に残し、報告資料にも線を引いてください。ここを残さないと、半年後に「あの月から悪化した」という誤読が起きます。
媒体をまたいで、同じ数え方で並べる
媒体ごとに定義が違うと、横に並べた表は、見た目が揃っていても中身が揃っていません。この作業は地味ですが、ここを飛ばすと、以降の議論がすべて印象論になります。「あの媒体は感触がいい」という話し方から抜けられません。
この節のまとめ
計測の仕組みを入れる前に、いまあるデータで確かめられます。営業の担当者と月に一度、広告経由の問い合わせが商談になったかを数えるだけで、どの媒体がずれているかは見えます。必要なのは30分の打ち合わせで、予算の申請もシステムの導入もいりません。
見つけても、止められないことがある
ここまでが、測り方の話です。実際にやってみると、もっと厄介な問題にぶつかります。
ずれが見つかっても、その施策が止まらない。
別の会社で、獲得単価が同業の相場の倍以上になっている施策を見たことがあります。数字は認識されていました。報告の場でも触れられていた。それでも、半年以上続いていました。
理由は単純で、止める人がいなかったからです。始めるときには稟議があり、承認者がいる。止めるときの手続きは、どこにも決まっていませんでした。誰の判断で止めるのか、何をもって止めると決めるのかが定義されていない。だから、止めないことが既定の状態になる。
加えて、その施策には社内の経緯がありました。ある役員が推した企画だった。止める提案は、その判断を否定する提案として受け取られる可能性があった。
個別の施策を評価する前に、止め方を決める
このとき取ったのは、順番を入れ替える方法でした。特定の施策の話をする前に、止める基準そのものを決めて合意する。
- どの数字が、どの水準を、何期間下回ったら止めるか
- 止めた予算をどこへ回すか
- 誰が判断し、誰に報告するか
基準を先に決めておけば、あとは当てはめるだけになります。「あなたの企画が悪い」ではなく「基準に該当した」という話にできる。判断が、人格の問題から切り離されます。
止めた予算の行き先を同時に示すことも、外せません。止めるだけの提案は、たいてい通らないからです。
この節のまとめ
止める基準は、個別の施策を評価する前に決めてください。あとから決めると、特定の施策を狙い撃ちにする提案に見えます。止めるだけの提案は通らないので、止めた予算の行き先も同時に示します。
良い報告ほど、確かめる
獲得単価が下がること自体は、悪いことではありません。本当に効率が上がっている場合も、当然あります。
問題は、下がった理由を確かめずに「改善した」と受け取ってしまうことです。私はそれをやりました。会議で報告を受け、資料の数字を見て、次の議題に移った。3か月後に営業部長から指摘されるまで、何も気づいていませんでした。
数字が良く見えているのに事業が伸びない。この状態のとき、原因はたいてい測り方の側にあります。改善に着手する前に、その数字が事業の実態を映しているかを確かめてください。順番を逆にすると、ずれた方向に精度が上がっていくだけです。
もし今月、良い報告を受けたなら。その数字がどこまでを数えたものかを、一度だけ聞いてみてください。答えが返ってこない場合は、確かめる価値があります。
この節のまとめ
報告を受けたら、その数字が事業の実態を映しているかを先に確かめる。順番はこれが先です。測り方が事業とずれたまま改善を続けると、ずれた方向へ精度が上がっていきます。
よくいただく質問
Q. 計測の仕組みを入れないと確かめられませんか。
A. 必要ありません。広告経由の問い合わせ一覧と、営業側の商談記録を月に一度突き合わせるだけで、傾向は見えます。名寄せが完全でなくても、どの媒体から来た人が商談になっていないかは分かります。仕組みの導入は、ずれが確認できてからで間に合います。
Q. 成果地点を変えると、件数が減って広告が止まりませんか。
A. 件数が少ないと媒体の学習が進まないため、その懸念は正しいです。目安として、月あたり30件を下回る場合は、成果地点は動かさず、評価だけを事業側で行う形にします。媒体には従来の地点を渡したまま、社内の判断は受注ベースで行う、という分け方です。
Q. 代理店に運用を任せています。何から伝えればよいですか。
A. 「受注に至った件数を報告に加えてほしい」と伝えるところからです。数字は発注側から渡す必要があります。代理店は管理画面の外を見られないため、事業側のデータがなければ受注で評価することはできません。
Q. 止める基準は、どのくらいの期間で決めればよいですか。
A. 検討期間の長い商材ほど長く取ります。商談化までに1か月かかるなら、最低でも2か月は見ます。重要なのは長さそのものより、着手する前に決めて合意しておくことです。あとから決めると、特定の施策を狙い撃ちにする提案に見えます。
この節のまとめ
計測の仕組みを入れる前に、いまあるデータの突き合わせから始められます。成果地点を動かすかどうかは件数しだいで、月30件を下回るなら評価だけを事業側で行う形にします。