CPAが下がったのに売上が増えない理由
広告の獲得単価(CPA)は下がっている。なのに、事業の売上は上がってこない。
どこか釈然としないまま、次の報告を待っていませんか。
報告を疑う前に、ひとつだけ確かめてください。いま目標にしているCPAは、何から逆算した数字でしょうか。
即答できる会社は、多くありません。私自身、代理店から「3割下がりました」と報告を受けた会議で、その場の誰も答えられないのを見ています。
上限が決まっていなければ、下がったことが良いのか悪いのかを判断できません。判断できないので、続けるか止めるかも決まらない。
この記事では、広告の数字を事業の実売と突き合わせて、どこがずれているのかを見つける手順を書きます。
この記事でわかること
- 目標のCPAが何から逆算された数字かを先に確かめる
- BtoBの許容CPAは成約単価から商談率・問い合わせ率で割り戻して決める
- 確かめるのに計測ツールはいらない。営業の成約情報を広告に返す往復を作る
目次
代理店の報告は正しかった。物差しがなかった
代理店の担当者から、こう報告を受けたことがあります。
「今月は獲得単価が3割下がりました」
資料の数字は確かに下がっていて、申し込みの件数も増えていました。会議の空気も悪くありません。
ただ、報告を聞きながら、ひとつ引っかかっていました。目標にしていた獲得単価は、どこから出てきた数字なのか。その場にいた誰も、説明できなかったのです。
BtoBの案件でした。問い合わせを1件もらうのに、いくらまで払ってよいのか。その上限が決まっていませんでした。決まっていないまま運用の目標だけが置かれ、代理店はその目標に対して忠実に仕事をしていました。
つまり、代理店は正しく動いていたわけです。間違っていたのは、こちらが渡した目標のほうでした。
その案件では、問い合わせが来て、商談になり、受注に至るまでに段階がありました。広告側から見えるのは、いちばん手前の問い合わせまでです。その先で何件が商談になり、何件が受注になったかは、営業の手元にしかありません。
段差そのものはどうしても生まれるもので、悪いことではありません。問題は、その段差を埋める数字を誰も持っていなかったことでした。
では、その段差はどこで生まれているのか。まず、CPAという数字が何を数えているかから整理します。
CPAは入口までしか数えていない。だから売上と連動しない
CPAが数えているのは、申し込みが入ったところまでです。その先で受注に至ったかどうかは、この数字の外にあります。
CPAは、広告費を獲得件数で割った数字
CPA(顧客獲得単価)は、広告費を獲得件数で割ったものです。10万円使って10件獲得できたなら、CPAは1万円になります。
ここで効くのが、「獲得」を何にするかです。成果地点(コンバージョンポイント)を、出稿する側が決めています。資料請求を1件と数えることもできますし、問い合わせでも購入でも構いません。どこに置くかによって、媒体が探しにいく相手が変わります。
そして、広告の管理画面が数えているのは、その成果地点までです。その先で商談になったのか、受注できたのか、継続してもらえたのかは入っていません。受注の情報を持っているのは、営業だけです。
つまりCPAは、入口までの効率を測った数字です。入口の効率が良くなることと、事業の売上が伸びることは、必ずしも同じではありません。CPAが改善しても売上が伸びないのは、数えている範囲が違うからです。
成果地点を4つのどこに置くかで、CPAの見え方は変わる
成果地点として置ける場所は、次の4つに分かれます。
| 成果地点 | 件数 | 事業との距離 | CPAの見え方 |
|---|---|---|---|
| 資料請求・ダウンロード | 多い | 遠い | 安く見える |
| 問い合わせ・相談申込 | 中くらい | やや近い | 中くらい |
| 商談の実施 | 少ない | 近い | 高く見える |
| 受注 | 最も少ない | そのもの | 最も高く見える |
上に行くほど件数が集まり、CPAは安く見えます。下に行くほど事業の実態に近づくかわりに、件数が減ります。正解はひとつではありません。事業の段階と、集まる件数の多さで選びます。
気をつけたいのは、上の行に置いたまま「CPAが安くなった」と評価してしまうことです。もともと安く見える場所で測っているので、安く出るのは当然です。
媒体は、渡された目標に忠実に動く
いまの広告配信は、機械が自動で最適化します。「資料請求を安く取れ」と指示すれば、資料請求をしやすい人を探しにいきます。ここに悪意はなく、指示のとおりに動いているだけです。
ところが、資料請求をしやすい人と、商品を買う人は必ずしも同じではありません。
- 情報収集が仕事の方
- 競合を調査している方
- とりあえず資料を集めておく方
この3つはどれも資料請求のハードルが低いので、機械から見ると「安く獲得できる優良な相手」に見えます。成果地点を引き直さないかぎり、機械はその内側で最適化を続けます。
だから「CPAが下がった」という報告にも、中身の違う下がり方が混ざります。
CPAが下がったのに売上が伸びない理由は、3つしかない
この状態には、3つの型があります。どれに当たるかが分かると、報告の受け取り方が変わります。ご自身の案件は、どれに近いでしょうか。
1. 購入意欲の低い層に配信が寄った
いちばん多い形です。申し込みの件数は増えるのに、商談になる件数は増えません。安く獲得できる層に配信が寄ると、この差が開きます。
2. すでに買うと決めていた人を拾い直した
指名検索や既存のお客様に広告が当たっている場合です。この層は広告がなくても購入した可能性が高いので、事業としては売上が上乗せされていません。CPAの見た目だけがきれいになります。
3. 成果地点が購入から遠い
途中の行動を数えている場合です。資料のダウンロードやメールマガジンの登録を1件としていると、売上とは連動しません。
3つとも、管理画面では「改善」と表示されます。区別する材料は、管理画面の中にはありません。
見分けるには、それぞれ別の数字を見る
- 1の場合:申し込みが増えたのに商談件数が横ばい。商談化率が下がっていれば、ほぼこれです
- 2の場合:指名検索やブランド名を含むキーワードの構成比が上がっている。既存のお客様が広告経由で計上されていないかも見ます
- 3の場合:成果地点そのものが受注から遠い。資料請求やメルマガ登録を1件としていないか確認します
いずれも、広告の管理画面と営業の記録を並べないと判別できません。逆に言えば、この2つを並べるだけで区別がつきます。
同じ期間を、2つの物差しで見る
参考として数字を並べます。以下は説明のための例で、実際の案件の数値ではありません。
| 見ている場所 | 前期 | 今期 | どう見えるか |
|---|---|---|---|
| 広告のCPA | 10,000円 | 7,000円 | 3割の改善 |
| 申し込み件数 | 100件 | 143件 | 4割の増加 |
| 商談になった件数 | 30件 | 30件 | 変わらない |
| 商談1件あたりの費用 | 33,000円 | 33,000円 | 横ばい |
上の2行だけを見れば、良い月です。ところが、下の2行を足すと、何も変わっていない月になります。同じ期間、同じ広告費の話です。
届いたレポートのどこから見るかは、広告代理店レポートの見方に手順を書きました。
POINT
- 自社がどれに当たるかは、管理画面と営業の記録を同じ期間で並べると分かる
- 上2行だけの資料では、判断できない
報告資料に上の2行しか載っていないとしたら、その資料からは判断のしようがありません。では、何があれば判断できるのか。ここからが本題です。
許容CPAは、LTVではなく成約単価から割り戻す
冒頭で引っかかった話に戻ります。
「下がった」を評価するには、いくらまで払ってよいかの上限が、先に決まっている必要があります。これを許容CPAと呼びます。上限がないまま数字の上下だけを見ていても、良し悪しは決まりません。
一般的な記事では「LTV(顧客生涯価値)から逆算しましょう」と書かれています。考え方としてはそのとおりです。ただ、BtoBの現場でLTVをそのまま使おうとすると、契約期間も単価も幅が大きくて、扱いにくいことがあります。
そこで私が実際に使っていたのが、成約した単価から逆算する方法でした。
まず成約単価(CPO)を確認する
成約したお客様1件あたりの単価を出します。ここが起点です。広告の管理画面ではなく、営業や経理が持っている実際の数字を使います。
そこから、受注1件に対していくらまで広告費をかけてよいかを決めます。粗利率や回収期間の考え方は事業によって違うので、ここは経営者が決めるところです。
各段階の比率で割り戻す
BtoBでは、申し込みから受注までのあいだに段階が挟まります。問い合わせが来て、商談になり、そこから成約する。段階ごとの比率を使って、許容CPAまで割り戻します。
たとえば、受注1件に30万円までかけてよいとします。商談からの成約率は3割、問い合わせから商談になる率は5割です。数字を順に置くと、以下のとおりです。
| 段階 | 次の段階への比率 | 1件あたりの上限 | 計算 |
|---|---|---|---|
| 受注 | — | 300,000円 | 経営判断で決める |
| 商談 | 受注まで30% | 90,000円 | 300,000円 × 0.3 |
| 問い合わせ | 商談まで50% | 45,000円 | 90,000円 × 0.5 |
この4万5,000円が、媒体に渡してよい許容CPAになります。上の数字もすべて説明のための例で、実際の案件の値ではありません。
比率は、営業が持っている過去の実績から出します。厳密な数字でなくても構いません。ざっくり3割なのか5割なのかが分かれば、上限の桁は決まります。桁さえ決まれば、いま出ているCPAが上限に対して余裕があるのかどうかは判断できます。
なお、この比率は媒体や流入経路によって変わります。検索から来た人とディスプレイ広告から来た人では、同じ問い合わせでも商談化率が違います。
余裕があれば、経路ごとに分けて出してください。どの経路にいくらまで払ってよいかが分かります。
起点を成約単価に置く
違うのは起点だけです。抽象的な生涯価値ではなく、実際に成約した単価から始めています。BtoBのように商談が挟まる商材では、成約単価から始めるほうが数字を集めやすいと思います。
なお、ECのように購入がその場で完結する商材なら、ROAS(広告費用対効果)で見るほうが早い場合もあります。商談が挟まるかどうかで、使う指標は変わります。
そして上限が決まると、「3割下がりました」という報告の意味が変わります。上限に対して余裕があるのか、それとも上限そのものが実態とずれているのか。どちらの話なのかを、その場で切り分けられます。
冒頭の案件で起きていたのは、上限そのものが実態とずれている状態でした。
POINT
- 許容CPAは、成約単価から各段階の比率で割り戻して出す
- 比率は厳密でなくて構わない
- 桁が決まれば、いま出ているCPAに余裕があるかどうかは判断できる
ここまで読んで、「比率のデータが手元にない」と思ったかもしれません。そのデータを揃えるところから書きます。
商談率・受注率を確かめるのに、新しい道具はいらない
この話をすると、計測の仕組みを入れる相談になりがちです。私も最初はそう考えていました。広告から受注までを自動でつなげば解決するはずだ、と。
実際にやったのは、もっと地味なことでした。
営業に、成約したかどうかを書いてもらう
広告経由で来たお客様について、成約したかどうかを営業に書いてもらいました。すでに持っている情報なので、新しく調べてもらう必要はありません。
渡した一覧に入れていた項目は、これだけです。
- 問い合わせの日付
- 会社名(分かる範囲で)
- 流入した媒体・経路
- 営業が記入する欄:商談になったか/受注したか/受注金額
最後の1列を営業に埋めてもらうだけです。新しい仕組みも、特別な入力画面もいりません。
最初の月は、同じ会社が二重に並んだままの粗い一覧でした。それでも十分でした。成約に至っていない行が、特定の媒体に固まっていたからです。管理画面の上では、最も安く獲得できていた媒体でした。
そのデータを、広告運用に返す
確認して終わりにせず、そのデータを広告の運用担当に返しました。ここが要点です。
運用している側は、管理画面の外を見ることができません。データを渡さなければ、受注で評価することも、受注につながりやすい層に寄せることもできません。情報が営業から広告へ流れる道を作ると、そこではじめて改善が回りはじめます。
一度きりの確認ではなく、毎月データが往復する状態にする。実際に取り組んだのは、これでした。
成果地点を、事業に近づける
ずれが見えたら、媒体に渡す目標そのものを変えます。資料請求ではなく、商談になった件数を成果として設定します。電話や訪問で決まった分をあとから広告側に戻す設定も、ここに含まれます。
ただし、件数が少ないと機械の学習が回りません。目安として、月30件を下回るなら成果地点は動かさないほうが無難です。その場合は媒体には従来の目標を渡したまま、社内の評価だけを受注ベースに切り替えます。
媒体をまたいで、同じ数え方で並べる
媒体をまたいで並べるときは、成果地点の定義を先に揃えてください。資料請求と問い合わせが混ざった表は、見た目が揃っていても比べられません。揃えるまでは、媒体の感触で話さない。
代理店に頼むのは、3つだけでいい
運用を代理店に任せている場合、伝えることは多くありません。次の3つで足ります。
- 広告経由で受注に至った件数を、月次の報告に加えてほしい
- そのために、こちらから成約データを渡す
- 評価は、CPAではなく受注1件あたりの費用で見たい
3つ目まで伝えることが大事です。何で評価されるかが決まって、はじめて運用の向きが変わります。データを渡さずに「受注で見てほしい」とだけ言うと、お互いに動けなくなります。
今日から30分でできること
- 先月の広告経由の問い合わせ一覧を出す
- 営業の担当者に渡し、成約したものに印をつけてもらう
- 印のつかなかった行が、特定の媒体に偏っていないかを見る
- 偏っていたら、その媒体の目標設定を代理店と話す場を作る
POINT
- 計測ツールを入れる前に、先月分の一覧を営業に渡して印をつけてもらう
- 偏りが見えたら、そのデータを広告の運用担当へ返す
- 往復させることが要点
ここまでが基本の手順です。ただし、この方法がうまく働かない事業もあります。
この方法が効かない場合もある
ここまでの手順は、どんな事業でも同じように効くわけではありません。次の3つの条件では、別の考え方が要ります。
受注までの期間が半年を超える商材
今月の広告と今月の受注が対応しません。比率で割り戻しても、元にする件数が別の時期のものになってしまいます。この場合は四半期や半期で区切り、申し込んだ時期ごとにまとめて追います。
広告以外の接点が多い商材
展示会、紹介、既存顧客からの追加発注。この3つが売上の大半を占めるなら、広告経由だけを切り出しても事業の全体像にはなりません。広告の貢献をどう割り振るか、という別の議論が先に来ます。
問い合わせが月に数件しかない
比率を出すには、件数が少なすぎます。3件のうち1件が商談になっても、それを33%として扱うのは危うい。この規模では、比率より1件ずつの中身を見たほうが早いです。
この3つの条件に当てはまる場合は、無理に数字で割り切らないほうがいいと考えています。
見つけても、止められないことがある
ここまでは、測り方の話でした。実際にやってみると、もうひとつ厄介な問題にぶつかります。
ずれが見つかっても、その施策が止まらないことがあります。
理由は単純で、止める手続きが決まっていないからです。始めるときには稟議があり、承認する人がいます。しかし、止めるときの手続きは、どこにも決まっていないことが多いのです。誰の判断で止めるのか、何をもって止めると決めるのか。ここが決まっていないと、止めないことが既定になります。
この記事で書いてきたのは、ずれているかどうかを見つけるところまでです。止める合意をどう取るかは、別の仕事になります。基準づくりから停止の合意までを実際に進めた事例は、広告の停止判断にまとめました。
今日、ひとつだけ聞いてください
獲得単価が下がること自体は、悪いことではありません。本当に効率が上がっている場合も当然あります。
問題は、下がった理由を確かめずに「改善した」と受け取ってしまうことです。確かめるには、いくらまで払ってよいかの上限が先に要ります。
もし今月、良い報告を受けたなら。その目標のCPAが何から逆算された数字なのか、一度だけ聞いてください。
答えが返ってこないなら、そこが出発点です。
先月の問い合わせ一覧に、成約の印だけ付けたい。その突き合わせから始められます。広告効果測定の支援に、範囲と進め方をまとめています。
よくいただく質問
Q. 営業が協力してくれない場合はどうしますか。
最初から全件を頼まないことです。先月分だけ、20〜30行の一覧に絞って渡します。埋めるのが5分で済む量なら、たいてい通ります。
そのうえで、返ってきた結果を必ず営業にも共有してください。「この媒体からの問い合わせは商談になっていなかった」という事実は、営業にとっても使える情報です。片方向の依頼で終わらせると、翌月から止まります。
Q. 過去のデータが揃っていません。
揃うのを待つ必要はありません。先月分の1か月だけで、偏りは見えます。
むしろ過去2年分を遡ろうとすると、同じ会社をまとめる作業だけで数週間かかり、途中で止まりがちです。1か月分を毎月足していくほうが、結果的に早く形になります。
Q. 商談化率が月によって振れます。どの数字を使えばいいですか。
直近3か月の平均で構いません。許容CPAは桁が合っていれば役に立つ数字なので、小数点以下を詰める意味はあまりないと思います。
振れ幅が2倍以上あるようなら、平均を取る前に原因を見たほうがいい兆候です。特定の媒体や商材が混ざっていないかを確認してください。
Q. 代理店に「評価を変えたい」と言い出しにくいです。
責める話ではなく、渡す情報を増やす話として伝えると角が立ちません。「これまでお渡しできていなかった受注データをお渡しします」という形です。
代理店も、管理画面の外が見えないまま運用しています。データが増えて困る運用者は、まずいません。
Q. 成果地点を変えると、件数が減って広告が止まりませんか。
件数が少ないと媒体の学習が進まないため、その懸念は正しいです。月30件を下回る場合は成果地点を動かさず、媒体には従来の地点を渡したままにします。そのうえで、社内の判断だけを受注ベースに切り替えます。
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