私たちについて グロアのスタンス ストーリー サービス 実績 記事 資料 会社概要 グロアに相談する

マーケティングの内製化と外注、コスト比較で見落とす3つのこと

最終更新
公開日
  • 組織
  • 内製化
  • 外注
  • BtoB
片側に箱が1つ、もう片側に点線の箱が3つ乗った天びんの図。コスト比較の式に入らないものが3つ残ることを表している

マーケティングの外注費が、高い気がします。

毎月の請求書を見ながら、この金額を社内に回せば人が1人雇えるのではないか。そこから「マーケティングの内製化と外注、どちらが得か」を調べ始めます。

調べると、人件費と外注費の比較表に出ます。ただ、その式には入っていないものが3つあります。しかも、その3つは金額に換算しにくい。

この記事では、決める前の比較だけを書きます。手数料の内側と、代理店を外したときに何が消えるかです。

この記事でわかること

  • 上位の記事はどれも同じ判断基準を並べている。均質化しているので調べても決まらない
  • 手数料率は予算規模で変わる。一律20%で試算した比較は実務と合わない
  • 金額の式に入らないものが3つある。緊急時の対応先・市場のベンチマーク・現場の声

この記事は総合マーケティング伴走の一部です。

目次
  1. マーケティングの内製化と外注の判断基準は、どの記事もほぼ同じ
  2. 重みづけは、いま何に困っているかで決まる
  3. コスト比較の式は、人件費と外注費をどう並べるか
  4. 「浮いた分で人が雇える」の落とし穴
  5. 内製と外注のコストを式にする
  6. 外注の手数料率は予算で変わるので、一律20%の試算は実務と合わない
  7. 手数料率は契約によって変わる
  8. まず、自社の契約書を確かめる
  9. 手数料に何が含まれているかも確かめる
  10. 契約期間と解約の条件も見ておく
  11. コスト比較の式に入らないものが3つある
  12. 1つ目:緊急時・トラブル時の対応先
  13. 2つ目:市場のベンチマーク
  14. 3つ目:現場の生の声
  15. ベンチマークが無いと、何が起きるか
  16. 3つとも、金額に換算できない
  17. 内製化と外注の分かれ目は、月にいくら使っているか
  18. 金額が増えるほど、削減できる「率」は下がる
  19. 金額の線引きは自社の実効率から自分で出す
  20. 計算が拮抗したときは、内製化しない
  21. 規模が小さいうちは、別の選択肢を持つ
  22. 内製化と外注は二択ではなく、判断は自社・実行は外部に分けられる
  23. 業務を「判断」と「実行」で分ける
  24. 一部だけ内製にする形
  25. 段階的に移す
  26. 移す順序の目安
  27. 移した後に、外部を完全に切らない
  28. 移行でよくある失敗
  29. 逆方向への戻し方も決めておく
  30. 判断を自社に戻すために、最初にやること
  31. この記事で扱わないこと
  32. まとめ:今日、1つだけ確かめてみてください

マーケティングの内製化と外注の判断基準は、どの記事もほぼ同じ

「マーケティング 内製化 外注 比較」で上位に出る5本を読み比べたところ、5本すべてが同じ形でした。判断基準を並べ、メリットとデメリットを表にする。項目もほとんど重なっています。

判断の軸よく書かれている内容
コスト人件費と外注費のどちらが安いか
スピード社内で回すほうが速いか、外部の立ち上がりが速いか
ノウハウの蓄積社内に知見が残るかどうか
品質・専門性採用できる人材の水準と、外部の専門性
業務領域どの業務を内製に向けるか

どれも間違っていません。間違っていないのに、読んでも決まらない。

理由は、この5つが「一般に考慮すべき点」であって、自社にとってどちらが重いかを教えてくれないからです。5つのうちコストを重く見れば内製、専門性を重く見れば外注という結論が出ます。重みづけは各社で違うのに、そこは書かれていません。

この問いが、一般論では答えられないからです。

メリットとデメリットの表は、どの記事にもあります。どちらにも良い面と悪い面があり、重みづけが自社で違う。表を見ても決まらないのは、そのためです。

重みづけは、いま何に困っているかで決まる

5つの軸のどれを重く見るかは、いま何に困っているかで決まります。

いま困っていること重く見るべき軸
施策の反映が遅い。修正のたびに何日もかかるスピード
何をやっているか分からない。中身がブラックボックスノウハウの蓄積
予算が合わない。費用対効果が説明できないコスト
提案が一般論に見える。自社の商材を理解していない品質・専門性
業務の一部だけが手に負えない業務領域

困りごとが「遅い」なのに、コストで比較していると、答えが出ません。 内製化して速くなっても、コストは上がるかもしれない。それでも目的を果たしているなら正解です。

比較の前に、何を解決したくてこの検討を始めたのかを一度書き出してみてください。ここが曖昧なまま比較表を作ると、どちらを選んでも「思っていたのと違う」で終わります。

だから、この記事では違う角度から見ていきます。

コスト比較の式は、人件費と外注費をどう並べるか

多くの記事が「人件費 vs 外注費」で比べています。ところが、内製のほうには、入れ忘れやすい費目がいくつかあります。

内製にかかるもの見落とされやすさ
給与🟢 誰でも入れる
社会保険料の会社負担🟡 給与の15%前後が乗る
採用費🟡 人材紹介なら年収の30%前後。1回きりでも大きい
教育・立ち上がり期間🔴 入社から戦力化まで数か月は成果が出ない
ツール代🟡 分析・入稿・クリエイティブで月数万〜数十万円
管理工数🔴 上長が見る時間。金額に出ないが確実にかかる

赤の2つ(立ち上がり期間と管理工数)が、比較を狂わせます。 どちらも請求書に出ないので、表から落ちやすい。

外注のほうは請求書に全部載っているので、かえって見えすぎます。見えているコストと、見えていないコストを並べると、見えているほうが高く感じられます。

「浮いた分で人が雇える」の落とし穴

検討の出発点になりやすいのが、この考え方です。月の外注費が50万円なら、年600万円。それだけあれば人が雇える、と。

ここには2つのずれが隠れています。

1つ目は、年収と人件費が違うこと。 年収600万円の人を雇うと、社会保険料の会社負担が乗ります。加えて採用費、机やPC、ツールのライセンス。実際には年収の1.3〜1.5倍を見ておく必要があります。

2つ目は、1人と1社を比べていること。 代理店には運用担当のほかに、制作、分析、媒体との窓口がいます。1人を雇って同じ範囲をカバーしようとすると、その人が全部を兼ねなければいけません。

兼ねられる人は、市場では高い。 しかも、全部を1人でこなせる人ほど、1社に留まる理由は少なくなります。

雇うなら「代理店と同じことをする1人」ではなく、自社にしかできないことをする1人として設計するほうが、うまくいきます。

内製と外注のコストを式にする

比べるなら、次の形にします。

``` 内製の年間コスト = 給与 ×(1 + 社会保険料率)+ 採用費 + ツール代 ×12 + 立ち上がり期間の機会損失 + 管理工数(時間×時給)

外注の年間コスト = 月額手数料 ×12 + スポットの制作費 ```

数字は自社のものを入れてください。この記事では金額の目安を書きません。 業種・規模・地域で数倍変わるので、目安を出すと、それに引っ張られるからです。

外注の手数料率は予算で変わるので、一律20%の試算は実務と合わない

コスト比較の記事の多くが、外注費を「広告費 × 20%」で計算しています。この前提が、実務とずれています。

手数料率は契約によって変わる

代理店との契約には、いくつかの形があります。

契約の形中身
定率(スライド制)広告費が増えるほど、手数料率が下がっていく
定率(固定)広告費にかかわらず、同じ率をかける
定額フィー広告費と切り離して、月額を決める
最低手数料つき率で計算した額が一定を下回る場合、最低額を適用する

どれを結んでいるかで、内製化したときの削減額はまったく違います。

たとえばスライド制なら、広告費が大きいほど手数料率は下がっています。つまり予算規模が大きい会社ほど、内製化で減らせる「率」は小さい。20%で試算していると、削減額が実際より大きく出ます。

予算が小さい会社では、最低手数料が効きます。率としては20%を超えていることがあり、この場合は試算より削減額が大きい

まず、自社の契約書を確かめる

やることは1つです。いまの契約が、上の表のどれにあたるかを確認してください。

契約書の該当箇所を開いて、実際の手数料額を広告費で割ってみる。それが今の実効の率です。20%とは限りません。

この数字が出ないまま比較表を作ると、式の入口が間違ったままです。

★なお、具体的な率の目安はこの記事では書きません。 公開されている確かな出所を確認できていないからです。

手数料に何が含まれているかも確かめる

率と同じくらい大事なのが、その手数料で何をやってもらっているかです。契約書に書かれている業務範囲を開いてみてください。

手数料に含まれることが多い別途費用になることが多い
媒体への入稿・日々の入札調整バナー・動画などの制作
月次のレポート作成LPの制作・改修
定例の打ち合わせ計測タグの設計・実装
media planの提案大規模なアカウント再構築

内製化したときに減るのは、手数料に含まれている業務のぶんだけです。別途費用の部分は、内製化しても外注しても発生します。

ここを分けずに「外注費が月◯万円だから、その分が浮く」と考えると、実際には浮きません。制作費まで含めた金額と、内製の人件費を比べていることになるからです。

契約期間と解約の条件も見ておく

内製化を決めても、すぐには切り替えられません。最低契約期間が残っていれば、その間は手数料と人件費が二重にかかります。

  • 最低契約期間は何か月か
  • 解約の申し出は何か月前までか
  • アカウントの所有権は自社にあるか(引き継げるか)

3つ目が特に重要です。広告アカウントが代理店名義になっていると、過去のデータごと引き継げないことがあります。データが無い状態から始めると、媒体の学習もやり直しになります。

この章のまとめ

代理店の手数料は定率・定額・最低額つきなど契約で変わる。予算が大きいほど率は下がる傾向があり、20%固定の試算は実務と合わない。まず自社の契約書で実効の率を出す。

コスト比較の式に入らないものが3つある

手数料の率を正しく出して、内製のコストも漏れなく積んだとします。それでも、式に入らないものが3つ残っています。

代理店を外すと、手数料が減るのと同時に、この3つも一緒に消えます。

1つ目:緊急時・トラブル時の対応先

広告の運用では、想定外のことが起きます。

  • アカウントが審査に落ちて、配信が突然止まる
  • 計測タグの不具合で、数日分のデータが取れていなかった
  • 意図しない配信面に出て、問い合わせが入る
  • 深夜や休日に、配信が暴走して予算を消化する

代理店にはチームがあり、媒体側の窓口も持っています。社内で1〜2名の体制にすると、担当者が休んだ日に何かあれば、その日は誰も対応できません。

金額に換算しにくいところですが、復旧が1日遅れたときの損失を考えると、無視できる項目ではありません。

たとえば審査落ちの場合、やることは決まっています。落ちた理由を特定し、該当箇所を直し、再審査に出す。慣れていれば数時間、慣れていなければ丸1日かかることもあります。

さらに、媒体の担当者に連絡できるかどうかで速さが変わります。出稿量の多い代理店には窓口がついていることがあり、そこから聞けば理由がすぐ分かる。自社アカウントで問い合わせフォームから送ると、返答まで数日かかることもあります。

★これは「代理店のほうが優れている」という話ではありません。取引の量で、使える窓口が変わるという構造の話です。

2つ目:市場のベンチマーク

3つのうち、市場のベンチマークがいちばん見落とされます。

代理店は同じ業界の他社を何社も運用しています。だから「いま業界全体でCPAが上がっている」「この時期は毎年こうなる」という比較の物差しを持っています。

内製化すると、見えるのは自社の数字だけです。すると、次の場面で困ります。

CPAが1.5倍になった。これは自社のLPが悪いのか、それとも市場全体が高騰しているのか。

自社の数字しか見えないと、この切り分けができません。自社のせいだと判断して改修に投資したが、実は市場全体の変動だった、ということが起こります。「市場のせいだ」と考えて放置したら、自社だけが落ちていた。この逆も起きます。

事業計画を立てるときにも効きます。来期の広告費をどう置くかは、市場がどう動いているかの見立てで決まります。その見立ての材料が、手に入りません。

3つ目:現場の生の声

代理店の担当者は、他社の現場も見ています。

「最近この訴求が当たっている」「この設定は事故が多い」「あの媒体は最近こう変わった」。記事やセミナーには出てこない、細かくて生々しい情報が、日常の会話の中に混ざります。

内製化すると、この経路が閉じます。媒体のセミナーや公式情報は取れますが、あれは各社に等しく配られる情報です。差がつくのは、そこに載らない部分のほうでした。

たとえば、代理店の担当者からはこう言われます。

  • 「この新機能、公式は推してますが、まだ荒いので様子見のほうがいいです」
  • 「同じ業界の他社さんも、最近この訴求に切り替えてます」
  • 「その設定、去年うちの別の案件で事故ったので気をつけてください」

どれも公式ドキュメントには載りません。誰かが失敗した経験だからです。

自社だけで運用していると、同じ失敗を自分で1回踏むまで知りようがありません。授業料を自分で払うか、他社が払った授業料を分けてもらうか、という違いになります。

ベンチマークが無いと、何が起きるか

市場のベンチマークについて、もう少し具体的に書きます。

自社の数字しか見えない状態で、次のような場面に出くわしたとします。

起きたこと自社だけを見た解釈市場を知っていた場合の解釈
CPAが1.5倍になったLPが悪い。作り直そう年末で入札が上がる時期。1月まで待つ
CVRが落ちたクリエイティブが疲弊した競合が同じ訴求を出してきた
表示回数が急に減った予算設定を間違えた媒体のアルゴリズム変更があった

左と右で、次にやることがまったく変わります。 左の判断で動くと、直す必要のないものを直し、待てばよかったものに投資します。

しかも、この誤りは結果からは分かりません。LPを作り直した翌月にCPAが戻れば、「作り直したから戻った」と解釈します。実際には時期が過ぎただけかもしれない。検証できないまま、間違った学習が積み上がります。

3つとも、金額に換算できない

この3つは請求書にも見積書にも出ません。比較表を作ると必ず落ちます。落としたまま計算すると、内製化のほうが得だという結論が出やすい。 見えている手数料だけが減って、見えていない価値が計算に入らないからです。

この章のまとめ

代理店を外すと、手数料と一緒に3つが消える。緊急時の対応先、市場のベンチマーク、現場の生の声。どれも金額に出ないので比較表から落ちる。

内製化と外注の分かれ目は、月にいくら使っているか

見るべきは年商ではなく、マーケティングに月いくら使っているかです。率で減らせる幅と、人を雇える規模が、ここで分かれます。

よく「年商いくら以上なら内製化」という切り方を見かけます。しかし、年商とマーケティングに使う金額は連動しません。 年商10億円でも広告をほとんど使わない会社はありますし、年商1億円で月500万円使う会社もあります。

見るべきは、マーケティングに月いくら使っているかのほうです。

金額が増えるほど、削減できる「率」は下がる

さきほど書いたとおり、スライド制の契約では予算が増えるほど手数料率が下がります。

つまり、予算規模が大きい会社ほど、内製化で減らせる率は小さくなる傾向があります。金額としては大きくても、率としては小さい。

一方、予算が小さい会社では最低手数料が効くので、実効の率は高くなりがちです。ただし今度は、専任の人を雇うだけの規模がないという別の問題が出ます。

金額の線引きは自社の実効率から自分で出す

この記事では「月◯万円を超えたら内製化」という線を書きません。書けるだけの根拠を持っていないからです。

代わりに、自分で出す方法を書きます。

  1. いまの実効の手数料率を出す(前の節)
  2. 手数料の年間総額を出す
  3. 内製の年間コストを出す(給与+社会保険+採用費+教育+ツール+管理工数)
  4. 2と3を比べる
  5. そのうえで、式に入らない3つを持ち続けるかを決める

5番目が判断です。1〜4は計算にすぎません。

計算が拮抗したときは、内製化しない

やってみると、内製と外注の金額が近くなることがよくあります。年間の差が数十万円、というくらいの近さです。

この場合の判断は、外注を続けるほうに寄せて構いません。理由は2つあります。

1つ目は、内製のほうの見積もりが甘く出やすいこと。 立ち上がり期間と管理工数を、実際より短く・少なく見積もる傾向があります。始めてみると、想定より時間がかかります。

2つ目は、切り替えのコストが計算に入っていないこと。 アカウントの移管、過去データの引き継ぎ、業務の棚卸し。この一時的な負荷は、たいてい表に載りません。

明確に内製が有利でないなら、動かない。 計算が拮抗したまま動くと、手間だけが増えて成果は変わりません。

規模が小さいうちは、別の選択肢を持つ

専任を雇う規模ではないが、いまの外注費も重い。この場合、内製化と外注の二択で考えると行き詰まります。

現実的なのは、関与量を下げた契約に切り替えることです。運用は自社で持ち、月1〜2回の相談だけを外部に残す。手数料は下がり、判断の相談先は保てます。

費用の考え方はCMO代行の費用相場と内訳にまとめました。

この章のまとめ

年商ではなく、マーケティングに月いくら使っているかで見る。予算が大きいほど削減の率は下がる。金額の線引きは自社の実効率から自分で出す。

内製化と外注は二択ではなく、判断は自社・実行は外部に分けられる

ここまで「内製化か外注か」で書いてきましたが、この2つは二択ではありません。

上位5本はすべて、どちらを選ぶかという二択で書いていました。実務では、もう1つの答えが取れます。

業務を「判断」と「実行」で分ける

マーケティングの仕事は、2種類に分けられます。

中身どちらに向くか
判断何をやるか決める。予算を配分する。止める判断をする自社(決裁と事業の情報がここにあるため)
実行入稿する。運用する。制作する。分析の作業をする外部でも社内でも可

判断を外に出すことは、そもそもできません。 決裁権は社内にしかないからです。

外注していても、最終的に「この予算でいくか」を決めているのは自社です。反対に、内製化しても判断できる人が社内にいなければ、意味は薄いままです。

内製化の議論が噛み合わないのは、判断と実行を分けずに話しているからです。「内製化する」と言ったとき、判断を取り戻したいのか、実行のコストを下げたいのかで、やるべきことが変わります。

一部だけ内製にする形

実務で現実的なのは、一部インハウスという形です。組み合わせ方はいくつかあります。

自社が持つ外部に出す
判断だけ内製戦略・予算配分・優先順位運用・制作の実務すべて
コア媒体だけ内製主力の媒体の日常運用新しい媒体・実験的な施策
制作だけ内製クリエイティブ(自社の商品知識が効く)媒体の運用・テクニカルな設定
監査だけ外部運用の全般定期的なチェック・情報提供

わたしが勧めるのは、完全内製化よりも、一部だけ内製にする形です。 手数料の一部は残りますが、式に入らない3つのうちいくつかを保てます。

とくに最後の「監査だけ外部」は、内製化を進めながらベンチマークを失わない形になります。運用は自社で持ち、外部は情報源とチェック役として月額で契約する。

段階的に移す

一気に全部を切り替えると、事故が起きたときに戻せません。

判断から先に取り戻すのが順序としては安全です。予算の配分と優先順位を自社で決められるようになってから、実行を移していく。順番を逆にすると、実行はできるのに何をやるかを決められない、という状態になります。

移す順序の目安

段階的に移す場合、どこから手を付けるかには目安があります。

移す順業務理由
1判断(予算配分・優先順位・止める決定)決裁は元から自社にある。取り戻すのではなく、意識的に持つだけ
2クリエイティブの企画自社の商品知識が最も効く領域。外部が最も苦労する部分
3日常の運用(主力の媒体)手順が固まっている。担当者が育てば回る
4新しい媒体・実験的な施策★最後。事例の数が要るので、外部の知見が効く

表の4番(新しい媒体・実験的な施策)を、最初に内製化しないでください。 新しい媒体は失敗の確率が高く、失敗のパターンを知っている人が必要です。ここを自社の学習で埋めようとすると、授業料が高くつきます。

移した後に、外部を完全に切らない

段階的に移すと、最後に「もう全部社内で回せる」という状態になります。ここで契約を切りたくなりますが、月1回の線だけ残してください。

理由は、さきほどの3つのうち2つ(市場のベンチマーク・現場の生の声)が、そこからしか入らないからです。運用を任せる必要はありません。情報源として、細い線をつないでおく。

金額としては、フル委託と比べれば大きく下がるはずです。それでいて、自社の数字だけで判断する状態は避けられます。

内製化を決めた後の進め方は、別の記事で扱います。この記事は「決める前」までです。

この章のまとめ

内製か外注かは二択ではない。判断は自社にしか置けず、実行は選べる。一部だけ内製にする形が現実的で、監査だけ外部に残せばベンチマークを保てる。

移行でよくある失敗

段階的に移す場合でも、つまずき方には型があります。実際によく見るのは次の3つです。

1つ目は、引き継ぎ期間を短く見積もること。 「1か月あれば引き継げる」と考えて、翌月から自社運用に切り替える。ところが、日々の運用は手順を渡せば済むものの、なぜその設定にしているのかまでは渡りません。設定の意図が分からないまま触ると、過去に検証した結果を壊してしまいます。

引き継ぎでは、手順書だけでなく「触ってはいけない箇所とその理由」を必ず聞いてください。ここを聞いていないと、最初の3か月で成果が落ちる原因になりがちです。

2つ目は、担当者を1人にすること。 コストを抑えたい気持ちは分かるのですが、1人体制は休みも取れず、退職があれば全部が止まる。手順を見れば代われる人を、もう1人作ってください。

3つ目は、外部の目を完全に断つこと。 前の節でも書いたとおり、市場の情報が入らなくなる。切り替えた直後は自社の運用に集中しがちで、市場の情報が抜けていることに気づくのは、半年ほど経ってからです。

逆方向への戻し方も決めておく

内製化してみて、合わなかった場合の戻り道も決めておいてください。

戻すときに困るのは、外注していた頃の運用の記録が残っていないケースです。自社で回している間の判断や設定変更を残していないと、外部に渡すときにゼロから説明することになる。

月1回でよいので、何を変えたか・なぜ変えたかを1枚に残しておく。内製を続けるなら引き継ぎに使えますし、戻すなら発注先への説明資料になります。どちらに転んでも無駄になりません。

判断を自社に戻すために、最初にやること

「判断は自社」と書きましたが、いま外注していると、実際には代理店の提案をそのまま承認しているだけ、という状態になりがちです。形式上は自社が決めていても、中身は相手が作っている。

判断を戻すのは、順番を1つ変えるだけで始められます。

いまの流れ:代理店が施策を提案する → 自社が承認する 変えた後:自社が「今期は何を増やしたいか」を先に伝える → それに沿った施策を出してもらう

先に目的を渡すと、提案の中身が変わります。「CPAを下げます」ではなく「この商材の成約を増やすために、こうします」という形になる。評価の物差しも、こちらが決めたものになります。

これは内製化しなくてもできます。判断を取り戻すのに、運用まで社内に持ってくる必要はありません。

この記事で扱わないこと

内製化の進め方、採用の代替、業務ごとの向き不向きの詳細は、決めたあとの話なのでここでは書きません。

完全内製が合う会社もあります。社内に判断できる人がいて、実行の体制があり、市場の情報を別経路で取れる場合です。この3つが揃っていないのに内製化そのものが目的になると、式に入らない3つを失います。

判断だけを外から借りる形もあります。実行は自社、判断の相談先は外部です。費用の目安はCMO代行の費用相場と内訳にまとめました。

まとめ:今日、1つだけ確かめてみてください

内製化と外注は、人件費と外注費の比較では決まりません。式に入らないものが3つある。この記事で書きたかったのはそこです。

次の5つを確かめてみてください。1つだけ選ぶなら、いちばん上です。契約書を開けば、10分ほどで出ます。

  • いまの実効の手数料率は何%か。契約書の手数料額を、広告費で割ってみてください。20%とは限りません
  • 内製のコストに、採用費・教育期間・管理工数を入れたか。この3つが落ちると、内製が安く見えます
  • トラブルが起きたとき、誰が対応するか。社内1〜2名の体制で回せるかを考えてください
  • 市場の状況を、どこから得ているか。代理店を外すと、この経路が閉じます
  • 判断と実行を分けられる業務はどれか。全部を同じ扱いにする必要はありません

5つ目に答えが出れば、二択で悩まずにすみます。全部を内製にするか外注にするかではなく、どこを分けるかを考えてください。

もう一つ、比較を始める前に確かめておきたいことがあります。なぜ内製化を考え始めたのかです。

コストが理由なら、実効の手数料率を出すところから。速さが理由なら、遅れているのがどの工程かを特定するところから。中身が見えないのが理由なら、レポートの項目を変えてもらう相談が先かもしれません。

外注をやめなくても解決する困りごとは、意外に多いというのが実感です。比較表を作る前に、いま困っていることを1つ書き出してみてください。

そのうえで内製化を選ぶなら、それは前向きな判断になります。困りごとから逃げるための内製化と、目的があっての内製化では、始めた後の進み方がまるで違います。

判断の相談先が要る場合は、マーケティング支援の考え方をご覧ください。運用は自社で持ったまま、判断の材料だけを外から入れる形も取れます。外部の目を残しながら社内へ移していく進め方は、インハウス化の支援にまとめています。

この記事を共有

この記事を書いた人

たけまるマーケティングディレクター

事業会社で17年、マーケティングの現場と決裁の場にいました。広告・コンテンツ・データのどれか一つではなく、売り方全体を決める側から見た話を書きます。